見知っている場所だからよけいに、知っているつもりでも実は知らなかった、気が付かなかったということがよくあります。「津山まちじゅう体験博(通称:津山まち博)」は、自然、歴史・文化、食、ものづくりなどさまざまな体験を通じて、津山に住んでいる人、津山を訪れる人それぞれに、津山のまちじゅうに溢れる魅力を感じてもらうために企画された新しい体験プログラムです。
 初年度の2024年に開催されたプログラムは17件。そのなかから珈琲の飲み比べ体験の様子を紹介します。

「珈琲」という漢字表記が津山由来とされる説は、珈琲愛好者以外にもだんだんと知られるようになってきました。その発祥の地・津山では、考案者である津山藩医で蘭学者の宇田川榕菴が自著『観自在菩薩桜随筆』に記していた図案をもとに、江戸時代に飲まれていた方法で珈琲を抽出する『珈琲罐(コーヒーカン)』が再現され、現在は2器が稼働。城西浪漫館内のカフェで実際に飲むことができるのです。津山市城西地区には宇田川家三代の墓があり、その縁もあって開業当初から珈琲罐で淹れた珈琲を提供していたそうですが、今回は、津山まち博プログラムとして、江戸時代当時に飲まれたであろう抽出方法で淹れる珈琲と、ハンドドリップで淹れる珈琲の飲みくらべをしてみようという企画が行われました。

 豆は、当時の珈琲に最も近い品種で、ブルーマウンテンの原種ともいわれるティピカ種(アラビカ種)の「ジャワアラビカ」と「マンデリン」をそれぞれ焙煎し、ブレンド。丁寧に挽いた豆を珈琲罐に入れ、熱湯を注ぎアルコールランプで沸騰させた後、10分程度蒸らしてカップに注いでいきます。抽出工程は理科の実験のようで、皆さん興味津々。バリスタの佐々木弘人さんによると、『煮立て過ぎるとえぐみが出てしまうので、初めは、火を落とすタイミングに苦労しました』とのこと。また、珈琲罐で淹れた珈琲は上澄みを飲むため、カップの底に粉が残るように、豆は通常より細かく挽くのもポイントだとか。ハンドドリップは個人の技量によるところが多いですが、珈琲罐で淹れると平均してクオリティを保つことが出来るというのも意外な発見でした。

 試飲後の感想は『もっと雑味があるイメージだったけど、すっきりして飲みやすかった』いうものが大半。ハンドドリップよりも、珈琲罐で淹れた珈琲の方がコクがある、旨味が深いと好評でした。地元在住でも、存在は知っていたが飲んだことがなかったという人がほとんど。『とてもいい機会だったので、また参加したい』という嬉しい声に、バリスタはじめ、スタッフの皆さんにも手応えと可能性を感じてもらえたのではないかと思います。
アジア、中東などの珈琲の源流を感じさせるような味わい深い一杯と、津山産小麦のラスクやカステラと一緒に、普段の喧噪を忘れてゆっくりと珈琲を味わう。津山城西の贅沢な珈琲時間を堪能した一日でした。

<イベント概要>
開催日時/2024年11月2日(土)、16日(土)いずれも14:00~16:00
場所/城西浪漫館 SO‘s Cafe
参加者/計23名